新子安より

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勇者推し 第三話

「いいと思います。真面目そうですし、素質もあるでしょう。私が偉そうに言うのも変ですが」

「いや、十分だよ。怪しまれないようにしたつもりだが、ガッツリ警戒されてしまったね」

「そうでしょうね。私のときを思い出しました」

 

私、勇者は今日で16歳の誕生日を迎えた。自分の誕生日がここまで国中で騒がれるのも本当に妙だ。テレビに映る「勇者様」が、今こうして普通の格好をしている私と同一人物であることが、どうしても不自然に思える。勇者様、勇者様…「様」というのもおかしい話だ。同じ人間なのに。

勇者になる前、私は、どこにでもいる普通の女の子、ではなかった。背が高く、母親ゆずりの体型をしていたから、学校では必要以上に目立った。体を動かすことが好きで、たいていのスポーツはできたし、勉強も好きで成績優秀なほうだった。友人にも恵まれ、これといった嫌がらせにあったこともなければ、周りと衝突したこともなかった。

とある競技の帝都代表として全国大会に出場したとき、テレビや雑誌の取材を受けたことがあった。今思えば、これがすべての始まりだった。いわゆる「バズる」というやつで、どこかはともなく作られた私が一人歩きして、全国に拡散し始めた。

 

「大変だったね。ところで、勇者やらない?」

 

連日のマスコミ対応、心ない噂話、慣れない環境下で大会の成績は散々だった。そんな私を、メディアは好き勝手持ち上げた挙句、結果を出せないからとこき下ろした。期待を裏切った、外見とスタイルだけ、華がない…

 

「勇者になってもらえれば、君を今の環境から自由にできる。約束する」

 

勇者。勇者って何をするんだろう。この日常から解放されるなら、私はなんだってできるんじゃないか。でも、私が勇者。なんだかおかしくなってきた。

 

「勇者って、楽しいですか」

 

我ながら、よくわからない質問をしたなと思う。小さな子どもが新しい遊びを見たときに言うそれと同じだった。そう、これは、ごっこ遊びだった。勇者ごっこをしてみないか、と誘われている。

 

「最初は大変かもしれないけど、週2からでもできるよ」

 

いよいよ私は笑ってしまった。バイト感覚の、ごっこ遊びの勇者か。嫌だったら辞めればいいしな、そんなことを考えながら、気づけば私は勇者になることを承諾していた。

なんとなく当時のことを思い出していると、ベッドからごそごそと音が聞こえてきた。

 

「あの、私…ごめんなさい。匂いが…じゃなくて、記憶がちょっと…ここは…?」

 

「ここは私の部屋。君が急に気を失ってしまったから、ひとまず寝かせるために連れてきた」

 

「あっ、あの、ありがとうございます、ごめんなさい」

 

「大変だったね。ところで、賢者やらない?」

 

続けます。