勇者推し 第4話
「私、賢者とかってよくわからないです」
「それに今、何が起きてるのかもわからないんです」
「取り柄もないです。今日もたまたま街を歩いていただけで」
「だから私は、賢者だなんてそんな」
「え?いやいや、素質だなんて」
「お金ですか?あればいいなとは思いますけど」
「部活?は、特に決まってないですけど」
「明日も別に、何もないです」
「あ、はい…」
お母さんになんて説明しよう。言えない。ちょっと、いやだいぶ素敵な女の人に介抱されて、なんとなく断れないまま明日また出かけることになったなんて。
そういえば連絡先も聞かれなかった。名前も書かれてない。あの女の人も、怪しい男の人も、特に名前は言ってなかった。
ますます怪しい。
わかっているのに、あの女の人が嘘を言おうとしたり、私のことを騙そうとか、変なふうにしようとか、そういうふうには思えない。じっと私の目を見つめるその目がまっすぐで、きれいで、吸い込まれるようだったから。
レンちゃんに相談したほうがいいのかもしれない。私、賢者にならないかって誘われたんだ。きれいな女の人と、怪しい男に。お金ももらえるんだって。気を失って、知らない部屋にいて、それで、なんとなく話を聞いてるうちに、いいかな、とか思っちゃって…
いやいや、さすがに頭がおかしくなったと思われるかもしれない。レンちゃん、そういうの嫌いだし。レンちゃんは優しくていつも笑ってるけど、オタクには冷ややかな目を向けていた。品行方正で、私とは違って凛とした女の子。そんな浮世離れした話、どうして信じてくれようか。
ふと、携帯が鳴った。レンちゃんからだった。
「ニュース見た!?魔道士様が抜けて、勇者パーティーの新メンバーオーディションやるらしいよ!」
「え?どういうこと?」
「方向性の違いで、魔道士様が独立するんだって。それでメンバーが足りないから、オーディションするらしいんだけど。候補者も全部秘密なんだって。どんな人が選ばれるのかな〜」
嫌な予感がする。
「候補者って賢者とかじゃないよね?」
「よく知ってるね!最近好きなの?笑」
勇者様、助けて。
続きます