新子安より

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We cannot understand Tato.

わかっていることといえば、彼の身長がおおよそ玄関のドアと同じぐらいの高さで、たびたび頭をぶつけては、照れ臭そうに笑うその顔が無邪気ということぐらいだった。

その日の朝、彼の住むアパートの前に黒山の人だかりができていた。中心にいたのが、彼そのものだった。群衆の中で一際目立つその姿は、椎名林檎のデビューアルバムを彷彿とさせた。

人だかりの中には警察官もいた。消防隊もいた。レスキュー?のような車もあった。野次馬はもちろんのこと、マスコミまで来ていた。彼はいったい何をしたんだ?

まさか、と思いテレビをつける。報道は彼のことばかりだ。チャンネルをいくら変えても彼の姿が映っている。動揺しているような、諦念しているような、なんとも曖昧な表情がそこにあった。テレビに耳をすませ、状況把握に努める。

「Tatoさん!何があったんですか!」

「今回の騒動の原因は何なんですか!」

「今のお気持ちを教えてください!」

だめだ、質問ばかりで何もわからない。少なくとも彼の名前はTatoというらしかった。思えばこれまで、名前も知らなかった。

「この事件はいったい何なんですか!?」

記者のひとりが叫ぶ。えっ、君らもそこなの?

Tatoはその記者をじっと見つめ、親指を立ててニコリと不適な笑みを浮かべる。

その刹那。彼の姿が大きな音と煙とともに消えた。たしかに消えてしまった。警察も消防もレスキューもマスコミも、呆気にとられた顔をしている。視聴者もきっとそうだ。結局、何もわからなかった。何が起きていたのか。彼は何者なのか。なぜ人だかりができていたのか。真相は全て闇の中である。世の中には、わからなくていいことがあるのかもしれない。そんなことを思いながら、今日はこの辺で筆を置かせていただく。

 

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今週のお題「外のことがわからない」