新子安より

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勇者推し 第二話

状況を整理しようと思う。

【パターンA】

私はどこにでもいる16歳の女子高生。道を歩いてたら偶然、ギョーカイっぽい人から賢者にスカウトされてビックリ!私の高校生活、どうなっちゃうの〜!?

 

【パターンB】

「魔」が足りない…。私は知っていた。自分が特別な「能力者」であることを。生まれたときから、人には見えないチカラがあって、私はそれをひとりで隠してきた。まさかこれが、「賢者の力」だったなんて……

 

【パターンC】

オッス!オラJK!休みの日に外歩いてたら裏通りでヤベエ変質者に会っちまった!これは逃げねえとやべえぞ〜

 

これは、Cだ。

残念ながら私は少女マンガの主人公でもなければ厨二病患者でもない。かといって脳筋バトル漫画の主人公かと言われるとそうではないのだが、思いついた選択肢がご覧の有り様だったので仕方がない。

花の女子高生ともあれば変質者の一人や二人経験しているものだ。かわいい子はかわいいだけあって、「不幸」という性質が付きまとう。神様ナイス、ありがとう世の中を平等にしてくれて。私には関係ないと思ってたけど、今日まさかの出来事があったよ。でも私知らなかった。ただ怖いわ。かわいいとか関係ないわ。みんな今までごめん。とりあえず、この場は一目散に逃げなくては。

「あの、違います!」

逆方向に身体を返し、歩いて来た方向に走り出す。我ながら完璧なフォームとスタートだった。よし、と思ったその瞬間、目の前に人影を認識する。

まずい。ぶつかる。

その刹那だった。

経験したことのない良い匂い。ふわっ、と音が聞こえた気がした。というか、いまぶつからなかった?ぶつかって…ない?

「大丈夫?」

その人影から声がした。全速力で走った私の身体は、いとも簡単に、その声を発したやわらかな身体に受け止められた。あたかもその場所に行くのが最初から決められていたかのように、私はその両腕におとなしく収まった。

「あ、ありがとう…ございます」

謝るより先にお礼を言ってしまった。様々な言葉が逡巡する。街中で私は、いったい何を。ところでこの人は誰なんだろう?疑問が頭を埋め尽くす。いや、本当は良い匂いとやわらかさのことでしかなかったけど。

「その子!その子だから、そのままにしといて」

先ほどの変質者が近づきながら叫んだ。誰に言ってるんだ?変質者と、この二次元みたいな人が知り合いということなのか。あと、その子って私か。「その子」って名前みたいだな。嫌だなあ、その子は…

「この子が?わかりました。君、ちょっとごめんね」

「あ、はい」

先ほどフレームに収まったと思っていた身体は、すこしだけ強い力で固定された。これはこれで、悪くない。顔を見ると、恐ろしく美しく、繊細な細工が施されていた。しばらくこのままでもいいかもしれない。

じゃない。冷静になれ。先ほどの会話を聞いただろう。変質者の仲間だとすると、この場は危険だ。逃げなくては。

「ちょっとだけ話、聞いてもらえるかな?」

「はい」

自分が、自分が情けない。なんで単純なんだ。美しいものに弱い。昔からそうだ。叔母は、たびたび素敵な洋服やアクセサリーを買ってきては、私のことを懐柔しようとした。私はどうしても叔母のことが好きになれないけれど、その意図通りに素直な子どもでい続けた。

「君は、……ってどう思う?」

長いまつ毛。きれいな手。声もいい。

「実は、………がやめることになって」

いい匂い。髪もきれい。私も、こういう髪が良かった。

「新しい……を探しているんだけど」

身長はどのくらいなんだろう。私より10センチぐらい高いなあ。顔小さいなあ。モデルさんかな?何をしてる人なんだろう。

「君さえ良ければ……に……」

この匂い。香水のような、花のかおりのような、自然で飾らない良い匂い。あ、だめだ。私、落ちます。おつかれさまでした。

お父さん、こないだ録画消したの私なんだ。どうしても撮りたいドラマがあって。お母さん、こないだババロア食べたいって言ったとき、絶対ごまかしたよね。ババロア作るのそんなに嫌かな。そうかあ…

 

「それで、君にはまず…あれ?」

「あーあ、年頃の女の子はこうなっちゃうんだよなー」

「ごめんなさい。注意はしているつもりなのですが。距離の取り方を間違えてしまいました」

「で、勇者はその子、どう思った?」

 

続きます